ジョアン・ジルベルト来日記念コラム
「J-WAVEボサーン」のために書いたコラム。
中村の視点で見たジョアン・ジルベルト感です。
25年前サン・パウロの街角の酒場で僕はブラジル音楽の底辺を経験した。そこでは毎晩ボヘミアン達が集まり、一本のギターを廻して弾きながら夜通し歌って過ごしていた。すべての人が音楽を熱く語り、街のギタリスト達が奏法を競い合い、そうやって幸せな時間を過ごしていた。時には新しい歌がうまれるところを目撃することもできた。そこには間違いなく音楽を楽しむ情熱があった。その中で僕はいつもノートと鉛筆を持っていて、彼等からギターと歌を教わった。
ボサ・ノヴァの生まれる経緯を書いた資料や写真を見ていると、僕が経験した酒場の雰囲気と似たものを感じる。若き日のボサ・ノヴァ・クリエーター達の姿に見えるのは音楽を楽しむ情熱だ。ボサ・ノヴァには知的でクールといったイメージが付きまとっているようだ。少し距離感を置くような表現方法がそう思わせるのだろう。でもその内側には熱いものが溢れている。独特のグルーヴ感や音の存在感を作っているのはその情熱だと僕は思っている。逆にただ表面的に軽く洒落た感じをなぞっただけのものには、どうしてもボサ・ノヴァを感じない。
もっとも強い情熱を持つアーティスト、ジョアン・ジルベルトが来日する。彼は自らの持つタイミングと音色にこだわり続け、最近ではソロのパフォーマンスに終始している。歌とギター、それだけで何一つ過不足のない音の世界を構築するジョアン、安らぎに満ちた瞑想的音の世界の裏側には、音で表現する事の極限を求め格闘し、それを楽しむ姿が見える。
※この掌編は'92『街角』 の中の「僕がサンバを作る時」という曲を作曲したとき、同時に書いたものです